「こんなはずじゃなかった」
「正しい選択だったはずなのに、なぜモヤモヤするのか…?」
──40代手前、会社では一定の地位にいても、将来への不安は尽きない。
昇進競争、キャリアチェンジ、副業、リストラ…。キャリアに対する“正解”がどこにも見当たらない。
今の時代を生きる私たちに必要なのは、「完璧なキャリアプラン」ではなく、変化にしなやかに対応できる力=キャリア・アジリティです。
この力を身につけることで、環境のせいにせず、納得感のあるキャリアを“創り続ける”ことができます。
🧩 第1章|変化の波に呑まれそうなビジネスパーソンのリアル

🧠 ケース:38歳男性・外資系企業マネージャー職の悩み
- 20代後半までに日系企業から外資系企業に転職し、成果を出して昇進。
- 現在はマネージャー職。年収は高いが、責任が重くプレッシャーも強い。
- AI導入、リストラ、人員削減の話題が社内で飛び交い、「今のポジションはいつまで続けられるのか」と不安が募る。
- 転職サイトを見てはいるが、自分の市場価値が通用するのか、次のステップに明確な答えが出せず、足踏みしてしまっている。
- 家族もおり、守るものがある一方で、自分の将来がぼやけて見えている。
このような状態は、多くの読者にとって“他人事ではない”はずです。
このケースでは、表面的には順調なキャリアに見えながらも、内面では「次の一手」が見えずに悩んでいるのです。
📌 説明:「築くキャリア」と「創るキャリア」の違いとは?
かつての日本型キャリアは、「安定した企業に長く勤めることで、自動的にキャリアが積み上がっていく」という“構造的安定性”が前提でした。
年齢に比例して昇進・昇給があり、転職は例外的な選択肢でした。
しかし現在は──
- 一社で定年まで勤め上げることはレアケース
- キャリアは“自動的に”ではなく“自発的に”つくるもの
- 働く意味・価値観が多様化し、「何をしているか」より「なぜしているか」が問われる
つまり、時代が変わった今、キャリアの前提も変わっているのです。
🔁 問題→解決の構造
この記事を読みながら、紹介しているケースについて、問題・原因・解決の方向性を想像しながら読み進めていただければと思います。
問題: 今のポジションには不満がある。でも、次のキャリアの選択肢もはっきり見えない。
原因: 環境変化に対応する視点やマインドが整っておらず、「行動しながら考える」経験も不足している。
解決の方向性: 本記事のテーマである「キャリア・アジリティ」という考え方を通じて、“しなやかに進み続ける力”を獲得していく。
🧭 第2章|キャリア・アジリティとは?──3つの軸で変化を乗りこなす

🎓 用語解説:キャリア・アジリティとは?
キャリア・アジリティ(Career Agility)とは、環境の変化や不確実な状況の中でも、自分の価値観を軸にキャリアを柔軟に選択・調整・行動できる能力のこと。
この考え方は、近年のキャリア理論や組織行動論でも重要な概念とされており、次のような背景を持ちます。
- プロティアン・キャリア理論(D.T. Hall)
「キャリアは組織が与えるものではなく、自分でデザインするものであり、価値観と自己主導性が鍵となる」という視点。 - 成人発達理論(R. Keganなど)
自分の枠組み(マインドセット)をメタ認知し、変化に対応できる柔軟性を持った“自己変容力”が成熟した大人の条件とされる。
✅ ABCモデル:3つのアジリティの構成要素
🔵 A:Agility(俊敏性)
即応力・スピード調整力・行動柔軟性
- 「変化を感じたら、すぐに小さく動く」力
- 必ずしも“動き続ける”必要はなく、“止まれる”ことも重要
- たとえば:「会社の業績が悪化してきた」→静観ではなく、情報収集や外部接点を広げておく行動が取れるかどうか
🧠 解説補足:
アジリティは、「速さ」だけではなく「動きの選択肢の幅広さ」を含む概念です。
柔道やサッカーと同様に、“前に出る・引く・かわす”を自在にできることが強さにつながります。
🔴 B:Big Picture(地図)
全体俯瞰力・キャリアの構造理解・戦略視点
- 「今の仕事は、自分の人生の中でどんな意味を持つのか?」を位置づけられる力
- 短期的な損得だけでなく、長期的な価値につながる選択ができる
- たとえば:「現職はハードだが、マネジメント経験が積める」→キャリア全体での位置づけを認識して納得できる
🧠 解説補足:
この視点が弱いと、「隣の芝生」ばかりが気になり、転職を繰り返してもキャリアが積み上がりません。
戦略的に“今いる場所”を活かす力が、Big Pictureの要です。
🟡 C:Compass(羅針盤)
価値観明確化・判断基準の一貫性・内的安定性
- 「何を大切にしたいか」が明確であること
- 環境や他人の意見に流されずに、意思決定ができる
- たとえば:「収入よりも家族との時間を大切にしたい」→転職条件に優先順位がつけられる
🧠 解説補足:
コンパスは“目標”ではありません。目標は変わっても、**「どう在りたいか」や「何を重視するか」**は人のキャリアを根底から支える軸になります。
🎓 用語解説:VUCAとは?
Volatility(変動性) / Uncertainty(不確実性) / Complexity(複雑性) / Ambiguity(曖昧性)
予測不可能で、複雑で、正解のない時代を指す現代社会の特徴的キーワード。
VUCAの時代では、長期的な計画の精度よりも、「柔軟に対応する力」が圧倒的に重要になります。
ABCモデルはまさにその「対応力の本質」を3つの軸で可視化したものです。
🧠 この章のまとめと次章への繋がり
問題:変化に直面したとき、すぐに動けず思考停止してしまう
解決:ABCモデルを使って、自分に必要な視点を整理し、バランスよく整えることができる
次の第3章では、「そもそもなぜ今、キャリア・アジリティが必要とされているのか?」という社会背景と心理的ブロック(3つの“負のP”)について解説していきます。
🚧 第3章|なぜ今、キャリア・アジリティが必要なのか?

🧠 ケース再掲:外資系マネージャーの停滞感
- 「現職がきつい」と感じつつ、転職には踏み切れない
- 理由は、“今の肩書きやブランド”を手放す怖さや、次に何をすればいいかが見えない不安
- 結果として、「現状維持だけど不満が募る」状態に陥る
これは非常に典型的な“キャリア停滞のスパイラル”です。
本人の中では行き詰まりを感じていても、動き出せない。
なぜ、このような状態になるのでしょうか?
❌ キャリアの流動性を阻む3つの罠(負の”P”sモデル)
これは、筆者が多くのキャリア相談や研究の中で見出した「変化にブレーキをかけてしまう典型的な3つの思考パターン」です。
すべて英単語でPから始まることから、負の”P”sモデルと名付けています。
❌ 思考の罠 | 説明 | 実生活での例 |
---|---|---|
Public Bias(偏見) | 社会的なラベル(年齢、学歴、肩書き)に過剰にとらわれ、自分の選択肢を狭める | 「40代で転職はもう遅い」「有名企業にいないと不安」 |
Persistent(固執) | 過去の成功体験や慣れ親しんだスタイルから抜け出せず、変化に抵抗する | 「昔はこのやり方でうまくいった」「今さら新しいことなんて…」 |
Plan(過剰な計画) | 完璧なキャリア計画を立てないと動けない思考に陥る | 「まず5年計画を立ててからじゃないと転職できない」 |
🎓 用語解説:キャリアにおける「プラン信仰」の危険性とは?
多くの人が「まずは完璧なキャリアプランを作ってから動きたい」と考えますが、VUCA時代にはこの思考こそが行動の足かせになることがあります。
なぜなら、今の社会では“計画が通用する期間”がどんどん短くなっているからです。
計画よりも、行動して振り返りながら軌道修正していく“アジリティ型キャリア”のほうが現実に合っているのです。
🔁 問題→解決の構造
- 問題: 変化の激しい社会に直面しても、古いキャリア思考が自分を縛っている
- 原因: 社会的ラベル、過去の成功、計画信仰など、無意識の思考パターン
- 解決: 自分の中の“負のP”に気づき、それを解体・再構成する視点と習慣を持つこと
🌱 次章への繋がり:「どうすれば変われるのか?」
ここまでで、「キャリア・アジリティが必要だ」という理解は深まりました。
では実際に、それをどうやって日常生活に取り入れていけばいいのか?
その具体的なアプローチを、第4章で解説していきます。
🛠 第4章|キャリア・アジリティを育てる5つの実践(ポジティブ”P”sモデル)

🧠 なぜ“P”sという名称を使うのか?
3章の負の要因(Public Bias, Persistent, Plan)と対比させることで、「自分の思考の傾向を識別し、変える」ことを意図しています。
さらに、5つの実践ステップもすべて英単語の“P”から始まるように設計し、記憶と実行のしやすさを高めています。
✅ ポジティブ”P”sモデル:キャリア・アジリティを高める5つの実践
🟦 P1:Purpose(自己理解)
自分の価値観・強み・キャリア軸を明確にする
概要:
変化の時代だからこそ、「何のために働くのか」「自分は何に喜びや怒りを感じるのか」という「価値観の言語化」が極めて重要です。
これはコンパス(羅針盤)を持つための出発点でもあります。
実践方法:
- ライフラインチャートを書いて過去の感情の起伏を分析
- キャリアアンカー診断や16Personalitiesなどで自分の特性を可視化
- 「どんな仕事なら無償でもやりたいか?」という質問に答える
🟩 P2:Practice(変化に慣れる)
小さな挑戦・越境経験を通じて「動ける自分」を育てる
概要:
アジリティを高めるには、「変化に強い」ではなく「変化に慣れる」ことが大切です。
毎日違う筋トレメニューをこなすように、キャリアにも“変化慣れ”を仕込む必要があります。
実践方法:
- 社内異動の希望を出してみる
- ボランティア活動や副業など社外で役割を持つ
- 業界や年齢の異なる人との対話を意識的に増やす
🟨 P3:Progress(学び続ける)
時代に合わせてスキルをアップデートし続ける
概要:
キャリアアジリティは、精神論だけでは機能しません。
「知識・スキル・視点のアップデート」=成長が止まらない仕組みを生活に組み込むことが肝です。
実践方法:
- Udemy・Schooなどオンライン講座を月1受講
- 月1冊の読書(ビジネス、自己啓発、未来技術)
- 社外の学びコミュニティ(リベ大・NewsPicksなど)に所属
🟧 P4:Principle(価値観に沿った選択)
判断軸を「世間の正解」から「自分の納得」へシフト
概要:
他人にどう見られるか、何が安定かではなく、「自分がどうありたいか」「何に意味を感じるか」という原則に基づいたキャリア選択を行うこと。
実践方法:
- 「理想の1週間のスケジュール」を書き出す
- 10個の大切にしたい価値観をリスト化し、優先順位をつける
- キャリア判断をするとき、「これは誰の期待に応えているのか?」と問い直す
🟥 P5:Pilot(仮説検証の習慣化)
キャリアを“考えるもの”から“実験するもの”へ
概要:
VUCA時代のキャリアは、正解を探すものではなく、「仮説を立てて、行動して、振り返って調整する」というプロセスで前に進むものです。
実践方法:
- 興味ある業界の人と1on1で話す(情報収集)
- 「半年だけやってみる」転職や副業
- 毎月末に「今月の仮説と結果」を1枚のメモにまとめる
📌 実例に当てはめてみる(再掲ケース)
外資系マネージャーがもしこの5ステップを踏めば…
- P1で「本当は人材育成がやりたい」と価値観に気づき、
- P2で副業として学生向けキャリア支援を始め、
- P3でコーチングスキルを学び、
- P4で「収入よりやりがいと家族との時間」を再定義し、
- P5で複業→独立を“実験”として行動に落とし込んでいく
結果、「動けない」状態から「納得しながら変わる」状態へと進化できます。
🌱 次章への繋がり:方向を見失わないために必要なものとは?
ここまでで「どうアジリティを育てるか」が見えてきました。
しかし、行動し続けていくには、「そもそも自分がどこに向かっているのか」という地図と羅針盤が必要です。
そこで次の第5章では、「キャリアの地図(Big Picture)」と「コンパス(価値観)」をどのように持ち、活かしていけば良いのか?を深掘りしていきます。
🗺 第5章|キャリアの「地図」と「羅針盤」を描く力を取り戻す
🧠 ケース再掲:外資系マネージャーの例に当てはめる
- 地図(Big Picture)がない → 「自分が何をしたいのか、どこに向かっているのか」が曖昧
- 羅針盤(Compass)がない → 「会社や家族の期待」など、他者基準で判断してしまう
この状態では、いくら選択肢があっても進む方向が定まらず、迷い続けることになります。
だからこそ、自分の中に「地図と羅針盤」を再設定する必要があるのです。
🟠 地図(Big Picture)とは何か?
キャリアの全体像を、時系列・役割・ライフステージの観点から俯瞰的に捉える視点。
✍️ 実践例:
- 自分の人生を10年単位で区切り、過去・現在・未来をマッピング
- 「キャリア」「家庭」「健康」「学び」の4領域で、理想的な状態を描く
- モデル例:「パラレルキャリア」や「スラッシュキャリア」など、複線型のキャリアパターンを検討
🧠 解説補足:
「今の仕事=キャリアのすべて」ではありません。
人生全体を1枚の地図のように捉えることで、現在地とこれからの道筋が見えやすくなります。
ビジョンの力について書いた記事も参考にしてみてください↓
🧭 羅針盤(Compass)とは何か?
外的な情報や他人の評価ではなく、自分の“価値観”に基づいて意思決定を下す内的指針。
✍️ 実践例:
- 「あなたが絶対に譲れないことは何か?」を5つ挙げてみる
- 「どんな時に嬉しいか/怒りを感じるか」を振り返ってパターンを言語化する
- 「理想の1日スケジュール」を自由に描いてみて、それがどんな価値を体現しているかを分析する
🧠 解説補足:
コンパスは“今後の目標”ではありません。
目標が変わっても、「何を大切にしたいか」という価値観はキャリアの根っこを支える重要な判断軸です。
🔁 問題→解決の構造
- 問題:「転職したい」「副業したい」など衝動はあるが、進むべき方向がわからない
- 原因: 自分のキャリアを大きな地図で捉える視点がなく、価値観も整理されていない
- 解決: Big PictureとCompassを整えることで、「選択に納得できるキャリア」が描けるようになる
🌿 補足:キャリア戦略のピラミッド構造(参考)
┌────────────┐
│ 価値観(コンパス) │
└────────────┘
↓
┌────────────┐
│ ビジョン(方向性) │
└────────────┘
↓
┌────────────┐
│ 目標(中期的) │
└────────────┘
↓
┌────────────┐
│ 戦略・行動計画 │
└────────────┘
このように、最上位にある“価値観”を土台としてキャリアを積み上げていくことで、外的状況に左右されず、自分軸で判断できるキャリア設計が可能になります。
🌱 次章への繋がり:「しなやかに進む力」が本当の安定を生む
ここまでで、「キャリアの地図と羅針盤」という“判断の土台”が整いました。
最終章では、この時代を生き抜く力としてのキャリア・アジリティの本質と、これをどのように日常の選択に活かしていくかを総括していきます。
🚀 第6章|まとめ:これからのキャリアに“柔軟性”という武器を
🔁 ここまでの振り返り(問題 → 解決の構造)
問題 | 解決 |
---|---|
将来が不透明で、何を目指していいか分からない | キャリアは「築く」ではなく「創る」時代へ(第1章) |
自分の強みや軸が曖昧で、選択肢が見えてこない | キャリア・アジリティという考え方(ABCモデル)(第2章) |
行動できない理由が頭の中を占拠している | 思考の落とし穴(負のPPP)に気づき、手放す(第3章) |
どうやって変わればいいか分からない | 5つの実践ステップで育てる(ポジティブPPP)(第4章) |
判断に迷い、選択に不安を感じる | キャリアの地図と羅針盤で“納得”を得る(第5章) |
🧠 なぜ「柔軟性」が“これからの安定”なのか?
これまでの安定とは、「変わらないこと」でした。
同じ会社、同じ職種、同じ場所で長く勤めることが正解とされてきました。
しかしVUCA時代では、変化そのものが前提です。
つまり、「変わらないこと=リスク」となり、「変わり続けられる力=新しい安定」になります。
💬 読者へのメッセージ:あなた自身が、“変化のナビゲーター”になれる
もし今、あなたがキャリアに不安や迷いを感じているとしたら──
それは、あなたのキャリアに“揺らぎ”があるからではなく、揺らぎを受け止める「器」がまだ育っていないだけかもしれません。
キャリア・アジリティは、生まれ持った才能ではなく、習慣で育てられる力です。
- 小さく動いてみる
- 感じたことを書き出してみる
- 月に1回だけでも立ち止まって「自分軸」を見つめ直す
そんな小さなアクションの積み重ねが、自分で自分のキャリアをナビゲートできる力に変わっていきます。
🎯 今日からできる3つの“アジリティ習慣”
- 価値観リストを作って、優先順位をつけてみる
→ 迷ったときの判断軸がクリアになります。 - “実験”として何か新しいことを始めてみる(社外の読書会、1on1、スキル習得)
→ 完璧な計画より、小さな仮説と行動が大切。 - 月に1回、自分のキャリアを「内省」する時間を設ける
→ 未来に迷わないために、今を言語化する。
🌱 まとめ
変化の波は止められない。でも、波に乗る力は育てられる。
キャリア・アジリティという“柔らかな強さ”を、あなたの武器にしてほしい。
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